ヒポクラテスとは、「医聖」又は「医学の父」として古代ギリシャ時代から今日まで広く尊敬され、医師の理想像とされた実在の人物である。
ヒポクラテス一派の医書をもとに編集されたものが、「ヒポクラテス集典」である。
「ヒポクラテス集典」の中に貫かれている精神を集約すると以下の様になる。
  • 全てをよく観察する。なにごとも見逃してはならない。
  • 病気よりも病人をみよ。病名が重要でなく病人を1つの生命体として病態を全体的にかつ正確に把握することが重要である。
  • 病態を正確に評価せよ。(正確に予後を判定せよ
  • 自然を助けよ。
    (医師の最も重要なことは自然治癒を助けることである。少なくとも害を与えるな。)

 ヒポクラテス医学の中で面目躍如たるものの1つは、彼の医療倫理にあると言える。彼は医師としてのモラル、医師としてあるべき理想像を描き、医師となるものに「誓い」として誓約させた。内容は以下の通りである。
『医神アポローン、アスクレーピオス、ヒュゲイア、パナケイアをはじめ全ての男神と女神にかけて、またこれらの神々を証人として誓いを立てます。そしてわたしの能力と判断力のかぎりを尽くしてこの誓いとこの約定を守ります。この術をわたしに授けた人を両親同様に思い、生計をともにし、この人に金銭が必要になった場合にはわたしの金銭を分けて提供し、この人の師弟をわたし自身の兄弟同様とみなします。そしてもし彼らがこの術を学習したいと要求するならば報酬も誓約書も取らずにこれを教えます。わたしの息子たち、わたしの師の息子たち医師の掟による誓約書をしたためた生徒たちには医師の心得と講義、その他すべての学習を受けさせます。しかし、その他の者には誰にもこれを許しません。自分の能力と判断力の限りを尽くして食餌療法を施こします。これは患者の福祉のためにするものであり、加害と不正のためにはしないように慎みます。致死薬は誰に頼まれても決して投与しません。また、そのような助言をも行いません。同様に、婦人に堕胎用器具を与えません。純潔に敬虔にわたしの生涯を送りわたしの術を施こします。膀胱結石患者に截石術をすることはせず、これを業とする人にまかせます。どの家に入ろうともそれは患者の福祉のためであり、あらゆる故意の不正と加書を避け、とくに男女を問わず自由民であると奴隷であるとを問わず情交を結ぶようなことはしません。治癒の機会に見聞きしたことや、治癒と関係なくても他人の私生活についてのもらすべきでないことは他言してはならないとの信念を持って、沈黙を守ります。もしわたしがこの誓いを固く守って破ることがありませんでしたら永久に全ての人々からよい評判を博して、生涯と術とを楽しむことをお許し下さい。もしこれを破り、誓いに背くようなことがありましたらこれとは逆の報いをして下さい。』

これは「ヒポクラテスの誓い」として、広く知られておりこの内容はいかなる時代にもいかなる国、いかなる人種、いかなる文化を持つ人々がいても医師としての職業人の持つ普遍的な倫理を含んでいる。今日でもヨーロッパ諸国の大学の医学生は卒業時にこの誓いを読み上げるという。以上で述べたヒポクラテスの精神は世界医師会により医師の患者に対する「ジュネーブ宣言」として現代に継承されその後1968年と1983年に修正されて今日に至っている。